ひとりでかくれんぼできるもんっ！
みなさん誰だって、かくれんぼしたことあると思うんですよ。
鬼役の子が10数える声を背中に聞きながら、田舎道を駆けて行く。隠れた軒先でドキドキしながら、道を監視するも誰も来ない。まだかな、上手いとこに隠れられたってことかな。待てど暮らせど探しに来ない友達を待っていると、七つの子が鳴り響く。ああ、みんな帰っちゃったんだ。悲しくなりながらも、泣くもんかと、トボトボ家路につく。こんな思い出がみなさんにもありますよね。え？ ない？ そんな淋しいことは言わないでよ。
でもまぁ、そんなぼくも今では立派な社会人。子供の頃なら、泣きながら帰るしかなくても、今ならひとりでかくれんぼができるんです。誰も探しに来なくて、淋しく一人で帰るなんてことにはならないんです。
ひとりでかくれんぼをしよう
結局、かくれんぼなんて〝隠れている何かを探す〟行為に過ぎないんですよ。詰まるところ、探すという行為さえできれば、それはもう立派なかくれんぼなんです。隠れいていたらみんな帰っていた設定なのに？さて、何を探そうか。
便利な時代ですね。スマホひとつあれば、些細な問題はあっという間に解決できるんです。適当なキーワードを提示する。それを探す。これはもう立派なかくれんぼ。翌日、学校で「昨日のかくれんぼ、楽しかったよね～」と言われても、なんなく会話に参加できます。いや～、便利な時代になりました。
さて、どうやってキーワードを決めようか。Lv1とLv5では明らかに難易度に差があるし、そもそも単語の数は1つでいいのか。あまり楽したくはないし、とは言っても無茶苦茶な難易度では困る。どうやって、ガチャを回していくか……。
やっぱ、ダイスでしょ。2D6。青色のダイスが語彙レベル、緑のダイスが表示語数だ。ガチャを回すルールが決まれば、もうやり方は決まったようなもんだ。
- 6面ダイスを2つ振る
- 出目を基に語彙レベルと表示語数を決めてガチャを回す
- 表示された単語の中から探すものを選ぶ
- 探して見つける
ダイスを振るとテンションが上がるタイプの人間にはもってこいの方法だ。これだ。これならひとりでかくれんぼができる。こんな適当で大丈夫か？ 大丈夫だ、行けばなんとかなる。
振ればなんとかなる
多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し長寿を祝うこの日、ぼくはダイスを手に自宅近くを歩いていた。なんたってこの街は「公園もあり、池があり、すぐに緑豊かな景色」が広がっていると、市政50周年PR大使も仰っていますからね。公園に自然豊か。なんと子どもが遊びやすところか。かくれんぼだって楽しめるでしょうね。……ひとりですが。
さて、ぐだぐだ言っても始まりませんからね。今日の成功を祈りながら、第1投。
スタートからLv.1とは幸先がいいですね。どれも簡単ですからね。これならぽんぽん見つかっちゃうな。しかも、探すものは1つですからね。どれを選んでも簡単そう。
イヌも家も鼻も目の前にある。虫もかんたんに見つかりそうだ。なら、「おととい」を探そう。せっかくやるんだから、少しは歯ごたえがないとね。今日は敬老の日なので、一昨日は9月19日だ。幸いにも近くでは道路工事をやっている。それをお知らせする立て看がたくさんある。いや、それに限らず政党看板もあるのだ。9月18日という日付が書かれた看板を探すのは容易なことだろう。
意気揚々と工事看板を見に行く。ほら、そこには9月19日の日付が……あるわけないですよね。そんな簡単にことが進むほど、ぼくの人生ははっぴーではないんですよ。それでも諦めきれず、他に妙案が浮かんだわけでもなく、立て看を追ってふらふらと、ふらふらと。気づけば、総合スーパーの前にいた。
スーパーか。ここで1つの妙案が浮かんだ。919円の商品を探せばいいんだ。一昨日だからといって、日付にこだわる必要はない。919という数字の羅列を探せばいいのだ。いや～、冴えてるな。そう思いつつ、食料品コーナー、日用品コーナー、ただただひたすらに値札を見ていく。だが、919円の商品はない。焦る。もう、40分近く経っているのだ。Lv.1で1つ目なのだ。スタートから躓くわけには……。よくよく考えれば、税込みでも税抜でも919円は中途半端な金額だ。そうそう、あるわけがない。
もう諦めよう。そもそも、ひとりでかくれんぼなんてできるわけがなかったんだ。帰ろうーー。挫折しかけたその時、ある売り場が目に入ってきた。トミカだ。子供に大人気な玩具で、ぼくは今でも大好きだ。当然知っているだろうが、トミカにはナンバリングがされている。そう、No.9とNo.19の商品を揃えれば、それは9月19日、おとといだ。ドキドキしながら、商品売場を覗きに行く。
あった。No.9 油圧ショベルとNo.19 カタナで9月19日「おととい」！ 時間がかかったので、喜びも一入ですね。端からこんなひねりを効かせたもので大丈夫か。幸先が悪い。まぁでも、見つかったんだ。自信を持って第2投だ。
もう歩きたくない
……。振る舞い酒!? 五重塔!? いやいやいやいや。こんなのどうやって見つければいいんだ？？？？ 五重塔の方が見つけやすそうだが、ここは京都でも奈良でも飛鳥でもない。しばし、呆然としてしまった。だが、時間は限られている。いつまでも突っ立ているわけにはいかない。取り敢えず、歩こう。
あれは三重塔……!? そうか、同じ形状のものが5つ重なれば、それはもう立派な五重塔だ。それぐらいならありそうな気がする。さぁ、張り切っていこう。やっぱり、頭で考えるより、体を動かせだ。いつだってそうだ。いきあたりばったり。取り敢えず行ってから考える。そうやってやってきた。それで何とかやってきた。今回もそれでいいのだ。
しかし、なかなか五重塔は見つからない。例えば、ジャングルジムなんてどうだろうか。5段のジャングルジムならありそうじゃないか。そう思って歩くが、ジャングルジムはおろか、公園すら見つからない。歩けど歩けど、家ばかり。やっと見つけたと思えば、4段のジャングルジムが鎮座していた。そりゃそうだ。5段となればそれなりの大きな公園にしかないだろう。住宅地にある小さな公園にはないか。
9月も終わりに近づいたとは言え、残暑が厳しい。暑い。喉も渇くし、汗も酷い。だが、それ以上に足が痛かった。もう歩きたくない。そう思うほどに痛かった。冷房の効いたスーパーを出てから、1時間以上が経過していた。当然か。痛みの原因はそこじゃない。どう考えても、履いている靴のせいだ。
足は痛いし、五重塔は見つからないし。自然と足は家の方向に向いていた。帰りたがっているのだ。身体は正直だ。ここで諦めていいのか。そう思う気持ちは頭の奥底に沈みかけていた。とは言え、止める勇気もタイミングも分からず、ただただ歩いてた。気づけば、目の前には横断歩道、そして、後ろには、後ろには……。
うおおおお！！！！ 5重の塔！！！！ 五重塔だ！！！！ 年甲斐もなくはしゃいでしまったが、1時間半も残暑の中歩いたのだ。許して欲しい。そりゃこれくらいはしゃぐだろう。厳しい戦いだった。だが、この戦いを乗り越えた今なら、どんなお題だって見つけることができるだろう。いくぞ。第3投だ。えっ、まだ3つ目……？
折れる心と(元から)壊れた頭
見つけてはいけないものが混ざっている。となると、もうインスタグラムしかない。大小の正方形。これが重なっていればInstagram(のアイコン)だ。簡単に見つかりそうだ。目星もついている。重い足を引きずって5分歩けばそこには……。
暑さで頭がおかしくなっていたのであろう。もうやっつけである。捨てられていたジョイントマットがまた何とも。これはInstagram、Instagramなんだとサイコロを投げる。ぼくしかいないんだ。どんなに酷くてもジャッジするのは所詮自分自身だ。まぁいいかで基準はどんどん甘くなる。辛い。こんなはずでは……。いや、そもそも何も考えていないからこうなる。
Lv.1とは言え、選択肢が1個というのはなかなか怖いものである。「頭」でよかった。近くには小中学校がある。飛び出し坊やがいるはずだ。彼を見つけて、とっと終わらそう。もうモチベーションなんてなかった。どこで終わりにするか。それだけを考えていた。しかし、まぁ見つからないもんですね。学校付近を重点的に探すがどこにもいない。学校付近をスマホ片手に徘徊する20代男性。どう考えても不審者だ。不審者情報に載らないことを祈る。
もう最初の頃の達成感もない。取り敢えず撮る。ただサイコロを振って、写真を撮る。これってかくれんぼか？ これって面白いのか？ もう、分からなくなってきた。ずっと自宅周辺をうろついている。帰りたがっているのだ。遠くに行きたくない。そう感じているのだ。
6。Lv.5までしかない。六面ダイスなんだから、6が出てもおかしくはない。考えていなかった。そうだな。6が出たら、自分で好きな目を選べることにしよう。まだ、やったことのないLv.3とかどうだろう。LV.2も出ていないのに、何故難しい方を選んだのだろうか。ありそうでない。そんなものばかりだ。
「改革」と聞いて、最初に浮かぶのは政党ポスターだが、時期が時期だけに感染症対策、安心安全な社会にと謳っているものばかりだ。「ハーブ」って何を指すんだろうか。ミントが直ぐに浮かんだが、探せそうにない。お茶っ葉はハーブなんだろうか……？ 「宇宙空間」。……猫か？これはどうしよもない。「砂時計」は100円ショップにでも行けば見つかるだろうが、それでいいのだろうか。
どこからか、七つの子が聞こえてきた。もう17時なんだ。帰ろう。帰らなきゃ。やっぱり、ひとりでかくれんぼは無理なんだ。そう思いながら、帰路へとついた。帰って時計を見ると、まだ16時だった。帰りたすぎて、幻聴が聞こえていたみたいだ。
回せPDCAサイクル
ひとりでかくれんぼは散々な結果に終わりました。……これでいいのだろうか。惨敗したまま、終わりにするわけにはいかない。リベンジ・マッチだ。闇雲にやっても、同じ轍を踏むだけだ。前回の反省を活かさないと。これでも社会人なんだぜ？ PDCAサイクルを回すのは基本ですよ。
先ずはサイコロの振り方だ。幸いにも今回は避けられたから良かったが、Lv.5で表示語数が1という大惨事が起きてもおかしくはなかったのだ。やはり、対象物を見つけられないのは精神的に辛い。適度な難易度が重要だ。振るサイコロは1つ。語彙レベルだけを決めることにしよう。
さて、次は場所だ。やはり、生活圏内では厳しすぎる。田舎の普通の住宅地だ。捜し物には苦労する。都心でないと。
来たぜ、中区栄。名古屋最大の、いや東海最大の歓楽街である。近くには錦三、大須、そして名城公園もある。ここならなんだって見つかるだろう。地上に出た瞬間から、もう確信する。かくれんぼをするなら都会。これがニュースタンダード。わざわざかくれんぼをしに、電車に乗る人がいるかな……？
語数はLv.+3に固定し、お題も1つに絞らない。選択肢はいくつあってもいいからね。これならいける。サイコロを振る腕も軽い軽い。さぁ、栄光への第1投だ。
簡単……だろうか。確かに時期が時期でもここは中区栄。それなりの人ではあるのだ。犬も黒も黄色も簡単に見つかるだろう。しかし、写真を撮るのだ。どこぞの馬の骨かも分からない人に、突然写真を撮らせてくださいなぞ言われたらどうだろう。迷惑どころか危ない人のすることだろう。
そうなると、対象物は限られてくる。難しい。そう考えながら、お洒落に生まれ変わった久屋大通公園を歩いていく。本当にお洒落なお店が乱立している。独り身の男には一生縁がなさそうなお店ばかりだ。彼女や家族と来たら楽しいんだろうな。本日は過ごしやすい天気だ。誰も彼も幸せそうだ。そんな中、ひとりでかくれんぼをする20代男性。どこで道を間違えたのだろう？
くだらないことを考えていると、突然世界で一番有名な「犬」が飛び込んできた。スヌーピーとチャーリー・ブラウンに群がる人たちに負けじと写真を撮る。あっさり見つかった喜びに思わず笑みが溢れる。かくれんぼをするなら都心。ニュースタンダード！
順風満帆
う～ん、微妙。栄は地下鉄社会だ。「踏切」はない。夏なら「経口補水液」だったろうが、今日はハロウィンなのだ。自販機巡りをしても見つからないだろう。「生命保険」「深夜ドラマ」。何を見つければ、そうそれになるのだろうか。「スタイリッシュ」はセンスが要求される。無理だ。「仲間たち」だ。それしかない。
どうしよう。悩みながら歩いていると、気がつけば金シャチ横丁を歩いていた。名古屋めしが食べられる新スポットだが来るのは初めてだった。実はもう「仲間たち」の目星はついている。時は12時を廻ったところだ。お昼時と仲間たち。この2つが結びつくものは1つしかない。
海老が二匹で「仲間たち」だ。……本当は海鮮丼を探していたのだが。美味しいからヨシ！ しかし、金シャチ横丁のお店は混んでいるのに、ここはお客が一人もいなかった。こんなに美味しいのに。タイミングだろうか。名古屋城観光の際は是非。
お腹も心も満たされたところで、第3投だ。
流石はLv.5だ。知らない単語もある。これは探すのも一苦労だ。……そうではない。お昼を食べたところはどこだっただろうか。そう、愛知県体育館内である。
愛知県体育館ことドルフィンズアリーナ。ドルフィンズアリーナと言えば、名古屋っ子なら誰もが知っている名古屋ダイヤモンドドルフィンズの本拠地である。シーズン中であれば、日夜熱い戦いが繰り広げられる現代のバトルドーム。それが愛知県体育館だ。
いや～、簡単だ。あまりにも順調で笑いが止まらない。この勢いのまま、どんどん行こう。
やはり、楽した罰が下ったんでしょうね。また、Lv.5ですよ。名駅、栄、大須。ここらには地方TV局が乱立しているので、それらをとって「チャンネル」とするのが簡単だろう。名古屋城からなら、名駅、中京テレビが一番近い気がする。よし、名駅まで行こう。前回の反省からちゃんとした靴を履いているとは言え、名駅までは遠い。足は悲鳴を上げる直前だ。秋とは言え、直射日光の下、長時間歩くと暑い。
なかなか着かないなと思いながら歩いていると、高層ビル広がるオフィス街にいた。伏見である。名駅とは方向が違う。方向音痴ここに極まれり。名駅に行かないと、右に曲がろうとした時、1つの案が浮かんだ。わざわざ、名駅まで行かなくとも見つけられるものがあるじゃないか。
白川公園の公園アニマルだ。思った通り、「象」さんの遊具があった。いや～、ファインプレーですね。TV局の写真を撮ったってなんにも面白くないですからね。公園アニマルを捕獲した方が絶対にいい。再放送でいいので復活しないかな？この遊具で楽しく遊んでおられるお子様がいて、写真を撮るのに30分も待っていますからね。感慨深いですよ。調子がいいので、サイコロを降る腕も軽い軽い。
たどり着いた場所
「地図」と言えばあそこに行けばある。場所もここから近い。順調故か足取りも軽い。そして特段書くこともない。そりゃそうだ。10分程度で着くし、迷う道でもない。あまりにも簡単だと面白みもない。もう少し捻っておけばよかった。こういうのを面白おかしくする力はないんだから。
それにしても人が多い。久屋大通公園は家族連れが多かったが、大須は若者が多い。何か年寄りくさい発言だな。人混みが多くなると、出てくるのが「サイコロどこで振る問題」だ。えっ、初耳？ サイコロを振っている姿を見られるのは恥ずかしいものだ。これまでもサイコロを振る度に、人気のないところを探し歩いていた。対象物よりサイコロを振る場所を探すことの方が難しいときもあった。
大須は商店街だ。ちょっとした路地裏にも人がいる。人の目がない場所なんてなかった。隠れてサイコロを振れる場所はないか。探し歩く。こっちの行為の方がかくれんぼっぽいな。もしかして、ひとりでかくれんぼをするってこういうこと……？
なんか真理に答えに近づいた気がした。そう思って振った出目は4。気のせいかな？4が多い気がする。4っていう数字は縁起が悪いとイタリア人も言っている。答えに近づいたと調子乗った途端にこの数字である。これは何のメッセージだろうか。いや、4は幸せの4だと中学生の頃担任の先生が言っていた。答えに近づいたことへの神からの祝福なのだ。ひとりでも幸せになれる……っ！
その証拠にほら、焼き魚定食屋さんが……。干物定食だった。焼き魚と干物は違う。おかしい。神は祝福してくれたんじゃないのか。やはり、人類にはひとりでかくれんぼは早かったことか。何か適当に締めたけど、オチた、ちゃんとオチた。よし、帰ろう！
最後に適当なこと言います
……完全にガス欠してるところからも分かるように、ひとりでかくれんぼは難しかった。サイコロを振ってはいるけど、散歩と変わらない。ただの散歩を面白おかしく書ける実力はぼくにはないんだ、ないんだよ。別に歩くのは嫌いではないので、楽しめたけど、かくれんぼを楽しめたかと言えば違う。何が違ったんだろう。どうすればかくれんぼを楽しめたと言えるんだろう。色々考えたけど、思いつかなかった。次回作にご期待ください。ただ、1つ言えるのは、行けばなんとかなるは魔法の言葉じゃないってこと。
